誘い

ゆいのすけの手や足は、泥んこというよりは、煤を被ったような、パンダのような黒い模様ができた。

仕方なく藁の小屋を後にし、もう一度民家に戻り、最近部分的に新調されたベッドに身を横たえぼーっとスケッチブックの絵を眺めた。


すると…

眺めていた絵が突如金色の光を放ち、真っ白になった視界が戻ったときには、先程の民家で同じように横になったゆいのすけがいた。


何が起こったのだろう、考える隙を与えず、部屋の外から声がした。ゆいのすけは慌てて隠れようとするも、すぐさま部屋に人がやってきた。まずい。ゆいのすけはとっさに住民に挨拶した。


なんの反応もない。それどころか、まるでゆいのすけが最初からいなかったかのように、全く振り向かれることがなかった。状況が飲み込めないゆいのすけは、気づかれてるんだろうと確認の意を持って住民の肩を叩こうとした。


ゆいのすけの手は住民の体を貫いた。

ゆいのすけは小さく悲鳴をあげたが、やはり住民は全くの無反応。

どうやらゆいのすけは、平たく言えば幽霊になってしまっているらしい。いてもたってもいられない彼は、自分に気がついてくれる人が欲しくなり、住民の後をついて部屋の外に出た。

リビングは暖かい光に包まれきらびやかなのに対し、テーブルの上にはパンとミルクが置かれ質素な食卓だった。ここの住民は若い好青年が一人で暮らしていたらしい。失礼だがその割には部屋の清潔感が素晴らしかった。


うまく住民にくっついて外出することができた。外は初夏の陽気で、水田で成長途中の稲たちがエメラルドグリーンの光沢をたなびかせ、川のせせらぎが村に緑豊かな自然の薫りをのせてきた。

スケッチブックの絵にはなかったテントがはられており、直感で見たところキャンプのようだった。

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