物語を求めて

夢を見て、起きて、突然いらだった。


多分とんできてた通知が期待と違ったんだろう。大体思ってたことと違うことになるからストレスがうまれるんだ。


自己満足させようとあれこれ考えて、やりたいと思ったら真っ先にやる。みたいな感じで絵を描いた。

それは別にいいのだが、なんとなく起床時の突然の怒りはまるで赤ん坊のように相手にされないことへの怒りかもしれないし、今日は出勤と第一に頭が働いて出たワードがそれによる怒りかもしれない。



ほうおう描いてからTL見なきゃよかったのに…好きなもの語りもNGかよ何様だよ

何事もなかったかのように絶対メイン復活する時は来る。動機はあんまりよろしくないが。



夫が温泉を要求しているので、今日は着替えのまとまったバッグを準備する。



なにもしたくないが行くしかない。

一昨日辺りからずっと顔色悪いと店で言われ続けている。じゃあ休ませろや。



アプリで人物を作るのに投資しよう…いや逃避しよう…だった。

いや、でも絵をもって文章が出てくるのが私の頭なのだ。

やっぱり絵が必要だ。


こうして書いていると、声や音楽が聞こえてきて、絵…というより、まさにそこにいる。



中世ヨーロッパの民家のような、レンガ作りの建物に一人のゆいのすけがいる。

窓から見える広い庭は芝生と、点々と小さな花が咲いているが、空は灰色一色で、昼間なのに夕方のような暗さに雨が程よく窓越しの視界を歪ませている。

ゆいのすけは窓からの光とろうそくの灯火を頼りに、黄土色とベージュの縞が入った素朴なデザインの羽ペンを取り、ごく普通の黒のインクをペン先に浸した。


ゆいのすけは手紙をつらつらと書き始めた。


“なつきさんへ

ご無沙汰しております。時が経つのは早く、御子様はあの頃からさぞ見違えるに成長しているのでしょう。

冒険を終えて、なつきさんとの契りも果たし、仲間たちは無事に、それぞれが自由に旅立っていきました。

私は一人を旅を続けていまして、小さな村を見つけました。かなり古い造りのようで、全部で5件ある建物の中には、誰も住んでいませんでした。

人が住まなくなってから久しいらしく、窓ガラスは割れており、家具はどれもほこりをかぶっていました。

私はしばらくここに住んでみることにしました。何か発見があるかもしれません。

今は人を招くことができるぐらいには綺麗になりましたので、もしご都合がよろしければ、遊びにいらしてください。

ゆいのすけより“


書き終えてから、この民家の本棚から見つけた住所を書いて手紙を送った。

住所に住民の名前が書いてあり、ゆいのすけの推測では同じ電波人間のようだった。


意識せずともアンティーク調で揃えられた空間は、不思議とゆいのすけの歩みを軽くした。なつきが来る前に調べたいことがごまんとある彼は、それはそれは小さな冒険を始めた。

まだ手にとったことのない本の数々は、彼の好奇心をかきたたせた。

本の場所が大分移動したところで、スケッチブックを発見した。

スケッチブックにはここに住んでいた人の名前が書かれており、失礼しますと絵を見たさいっぱいにしてめくると、一つの切り抜きのような風景画が描かれていた。


中途半端に切れている風景の端を想像で縫い合わせると、この村にそっくりな絵だと分かった。たくさんの住民がいて、外の建物の一件はかつてパン屋だったのであろう。

めくり続けると、竈の絵や、焼きたてのパン、店主と思われる人物画などが出てきた。


やがて、描かれていた人物たちは、皆武器や防具をがっちり固めていた。そして、絵はそこまでだった。


察するに、何か紛争があったのだろう。遠方に駆り出され、彼らはこの村に帰ってこなかった。あるいは、このスケッチブックの持ち主だけが帰ってこなかったのかもしれない。


ゆいのすけは急に、人の持ち物を物色していたことに罪悪感を覚えた。ゆいのすけが思っていたよりも、深刻な歴史が影をちらつかせた故か。

怯んだところで、ゆいのすけの探検が終わるはずがない。次に、ゆいのすけはかつてパン屋だった隣にある建物に入ることにした。

先程のスケッチブックからすると、かなり大きな邸宅だったようだ。だが現在そこにあるのは、粗末な藁の小屋だった。

ゆいのすけは最初この村に訪れたときに一度藁の小屋に入ったことがあり、特に何もめぼしい物は見つからなかった。


スケッチブックの風景画を、当時の出来事をありのままに描いたのだろうと信じ込んでしまったゆいのすけには、この藁小屋からただならぬオーラを感じるようになっていた。


ゆいのすけはもう一度藁小屋の中を調べた。何一つ物がない。ただ単に盛った土の床が一面に広がっているのと、雨漏りしほうだいの壁、葺き屋の造りが視界を奪うばかりだった。


ふと、ゆいのすけは地面の黒ずみが気になり、丹念に調べ始めた。

カビにしては、随分とパサパサしている。何かの焼けた跡なのか。炭でも無さそうだった。


もし、この黒ずみをゆいのすけのそっくりさんが見つけたらこう教えてくれただろう。

「そいつは鉄粉だな。この床に散らばっている黒いもんは、どうやら全部酸化鉄らしい。」


ゆいのすけは正体に疑問を膨らませながら手足で隅っこにはらっていった。

物語にあるような隠し階段や秘密の文章があるんじゃないかと期待したが、特に何もなかった。本当に何もなさそうだ。


雨漏りはしっかり水溜まりを形成し、ゆいのすけの不満そうな顔を暗がりの中で哀れみこめて反射した。

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